【解説】
第一回ローマ映画祭、そのオープニング作の上映会場は驚嘆と喝采に揺れた。
20世紀の偉大な女性写真家ダイアン・アーバスの生涯を魅惑的な脚本と映像で描いた『毛皮のエロス ダイアン・アーバス幻想のポートレイト』。既存の美醜の概念に挑戦し、過激な写真技術と題材によってポートレイト写真の意味を変革したダイアン・アーバスに捧げるオマージュ作品だ。奇才シャインバーグは彼女の自己発見だけでなく、夫と子供たちへの愛と、芸術をもとめてやまない内なる思いとの板ばさみに苦しむ女性のジレンマをもリアルに描き出した。
『エレファン・トマン』(80)、「美女と野獣」、「不思議の国のアリス」――興奮と恐怖を体験しつつ、最後には深い感動を覚えるこれら不朽の名作になぞらえ、物語は内気で献身的な妻であり母であった女性が、強烈で独創的な写真家へと変貌する迷宮の中へと観客を誘い込む。
【ストーリー】
1958年、ニューヨーク。
裕福な家庭に育ったダイアン・アーバス(ニコール・キッドマン)は、ファッションカメラマンである夫アラン(タイ・バーレル)のアシスタントとして働きながら、心の中には常に自分のいる世界に居心地の悪さと不安を感じていた。
そんなある日の夜、コートやマントで全身を覆い、目の部分だけがくりぬかれたマスクを被った男、ライオネル(ロバート・ダウニーJr.)がダイアンの隣に越してくる。この男の異形に激しく心を奪われたダイアンは意を決し、カメラを手に彼の部屋のベルを鳴らす。扉を開いた“運命の男”に隠された秘密は、彼女の好奇心を欲望へと駆り立てていく―。
|